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広島高等裁判所 昭和30年(ナ)4号 判決

原告 柳三男 代理人 岩本憲二

被告 山口県選挙管理委員会 代表者委員長 弘中武一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、小野田市が昭和三十年四月三十日執行した小野田市議会議員一般選挙は無効とすとの判決を求め、その請求原因として次の通り述べた。昭和三十年四月三十日小野田市議会議員一般選挙が施行せられ、原告はその選挙人であると共に候補者であつたが、右選挙は左記理由により選挙の規定に違反して無効である。即ち同選挙に当り小野田市選挙管理委員会は選挙公報を各有権者に配布したが、候補者六十一名中一名を脱落して掲載したまま配布した。然るに同選挙の結果は当選者と次点者との差が僅かに〇・五票であり右違反は選挙の結果に影響を及ぼす虞れ十分である。右は同委員会が立候補届出の最終日は同年四月二十日であるのに公報掲載申請の締切日を同月十九日とした為立候補届出の最終日である同月二十日に届出をなした候補者古城良勝が公報掲載の途を阻まれた結果である。即ち公報掲載申請期限を同月十九日と指定した同委員会の決定、告示が違法である。小野田市は選挙公報条例第二条で市議会議員の選挙においても選挙公報を一回発行することを定めているが、発行する以上すべての候補者が利用しうるよう努力し又は利用する機会を与えなければならない。法の規定した届出期限に立候補届出をしながら唯一の選挙公営機関を利用し得ないような締切期日を決定したことは公平の原則に反し確しかに違法を免れない。尚被告は右期日は小野田市選挙管理委員会が市公報条例に基いて印刷能力、検校正、配布に要する日数等を慎重に検討して定めたものであると主張するが、同公報条例第五条によれば選挙管理委員会は選挙公報を当該選挙に用うべき選挙人名簿に記載された者の属する世帯に対して選挙の期日前二日までに通常の方法により配布するものとするとあつて二日前に配布すれば足りるのであるが今回の選挙においては実際に配布されたのは四月二十四日即ち選挙期日より六日前である同市の有権者は男女合計三万二千五十六名であつて尚一世帯に属する者を最少限二名としても一万六千部の公報を配布すればよいので現在の印刷技術を以てすれば一日で印刷はできる筈である。又配布については同市選挙管理委員会の職員は常備四名、臨時七名合計十一名で事務をとつているから通常に処理しても二日前迄には十分配布できる能力を持つている。従て前述のように十九日に締切つて二十四日に配布しているのであるから何を苦しんで十九日に締切つたか了解に苦しむ。公報のような選挙において最も重要な選挙運動方法を適法に届出でた候補者が利用できないような期日の指定は全く違法である。仍つて原告は昭和三十年五月九日同市選挙管理委員会に対し右選挙の効力につき異議の申立をなしたところ同年五月二十一日右異議申立を却下されたので更に同年六月七日被告に対し訴願を提起したがこれ亦同年七月二十六日棄却せられたので本訴請求に及んだと述べ、乙第一号証の成立は不知と答へた。

被告代表者は主文同旨の判決を求め、答弁として原告の主張事実中昭和三十年四月三十日小野田市議会議員の一般選挙が施行せられ原告はその選挙人であると共に候補者であつたことその主張のような経過でその主張のような訴願の裁決がなされたこと、右選挙に関し小野田市選挙管理委員会が公報掲載申請の締切日を四月十九日と指定し、候補者古城良勝が同月二十日に立候補の届出をして同人のみ公報に掲載されなかつた事実は認めるが爾余の事実は否認する。公報掲載申請の締切日を右の如く立候補届出の最終日以前に指定してもそれは選挙の規定に違反するものではない。本件公報掲載申請締切期日の指定は小野田市選挙管理委員会が公職選挙法第百七十二条の二の規定にもとづき制定された小野田市選挙公報条例(昭和二十九年小野田市条例第二十二号)第三条第一項の規定「候補者が選挙公報に氏名、経歴、政見等の掲載を受けようとするときは、その掲載文を具し、選挙管理委員会の指定する期日までに選挙管理委員会に文書で申請しなければならない」によつて印刷能力、校正、配布に要する日数等を慎重に検討した結果、これを四月十九日と決定し、昭和三十年四月十五日小野田市選挙管理委員会告示第三十九号で告示したものであるから決定、告示に違法は存しないと述べ、立証として乙第一号証を提出し、証人藤本敏雄、大浜清人の各証言を援用した。

理由

昭和三十年四月三十日小野田市議会議員の一般選挙が執行され原告がその選挙人であると共に候補者であつたこと、原告が同年五月九日同市選挙管理委員会に対し該選挙の効力に関し異議の申立をなし同年五月二十一日異議申立が却下され、更に原告は同年六月七日被告に対し訴願を提起したが同年七月二十六日これを棄却されたこと、小野田市選挙管理委員会は右選挙に関し公報掲載申請の締切日を同年四月十九日と指定告示したこと、候補者古城良勝が立候補届出の最終日である翌二十日に届出でた為同人のみが右公報に掲載されなかつたことは当事者間に争がない。

原告は小野田市選挙管理委員会が立候補届出の最終日が四月二十日であるのにその前日である四月十九日を公報掲載申請の締切日に指定したことは違法であると主張するので考えてみるに、元来公職選挙法に基く選挙(参議院全国区を除く)においては各選挙管理委員会が公報掲載申請の締切日を指定するには立候補届出の最終日以後にするのが望ましく且つ妥当なのであるが、各地方の特別事情により真にやむを得ない場合には右最終日に最も近接したその以前の日に指定しても違法ではないと解するのが相当である。公職選挙法第百六十八条、第百七十二条の二等が右期日の指定を選挙管理委員会に委かせた法意もここに在るのであつて同法施行令第百二十六条が選挙管理委員会は選挙期日の公示又は告示があつた後直ちに選挙公報掲載申請の期限を告示すべきことを命じ候補者に周知させることを期していることによつても窺われる。これを本件の場合について考えてみるに証人藤本敏雄の証言により成立の認められる乙第一号証に右証人並に証人大浜清人の各証言を綜合すると小野田市においては市長選挙の時公報を発行したことはあるが市会議員の選挙では公報を発行するのは始めてである為一応市長選挙の際の例に従い公報掲載申請期限を四月二十一日と予定したが同市選挙管理委員会において市の関係者や印刷業者と共に種々検討した結果従来の例から立候補者は八十名乃至百名と推定され、公報を配布する世帯数は一万二千六百位であり、これに対する印刷、校正、配布等に要する日数は最小限十二日間であることが判つた為四月十九日と定めるに至つたものであること、かくして同月十五日選挙期日の公示と同時に同市選挙管理委員会告示第三十九号でその旨の公示をしたことが認められるから、右四月十九日を指定したことは、立候補届出の最終日である翌二十日に立候補届出する者には公報に掲載されない事態の生ずることが予想され、好ましくない結果にはなるが前段に説示したように候補者としては四月十五日の告示により承知した上のことではあり、叙上のような事情の下では真にやむを得ない措置と認めざるを得ない。かかる措置をとり得ることは前記乙第一号証の記載によつても明かなように昭和三十年二月二十七日執行された衆議院議員選挙において選挙公報掲載申請期限を十三の道、県が立候補届出の最終日より以前に指定していることによつても推測できる。

然らば小野田市選挙管理委員会が公報掲載申請期限を四月十九日と指定したことには何等の違法なく、その結果翌二十日に立候補届出した候補者一名が公報に掲載漏れとなつたことは当然のことであつてもとより本件選挙の無効をきたすものではない。従て原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決した。

(裁判長裁判官 植山日二 裁判官 佐伯欽治 裁判官 松本冬樹)

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